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最高裁判所第一小法廷 昭和24年(オ)74号 判決 1950年1月26日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告訴訟代理人上告理由第一点について。

しかし、原判決の認定判示したところは、一万円位なら都合によつては出すことにしてもよいというのであつて上告人主張のような一万円支払の確約は、成立するに至らなかつたというのであるから、被上告人から上告人に対し金一万円を支払うという確定的意思表示がなされなかつたことを判示した趣旨であること明白である。従つて、原判決の判示には所論(イ)のような意思表示の成立並びに効力に関する法理の解釈を誤つた違法は認められないし、また、その確定的意思表示の存在を前提とする所論(ハ)の主張も採ることができない。そして原判決の認定は、原審証人宮田金雄の証言の全趣旨に照し肯認することができる。されば、この点に対する所論(ロ)の証拠判断を遺脱したとの主張は原審の自由裁量に属する証拠の判断を独自の見解に基づき非難するに過ぎないものであるから、採ることができない。本論旨は、すべてその理由がない。

同第二点乃至第四点について。

本件訴訟記録に編綴されている第二審判決は、原本ではなく、正本であること並びにその正本は、第一枚と第二枚との間に作成者の契印を欠いていることは、いずれも所論のとおりである。しかし、訴訟記録に原判決の原本が添附されていないということだけでは、原判決に上告適法の理由となるべき法令違反があるということはできない。しかのみならず、民訴三九六条、三九二条並びに同五一六条、一〇〇条、一五一条等の規定によれば、第一審判決の原本は訴訟記録に添附して控訴審に送付すべきものであるが、控訴審の判決原本は、上告の有無にかかわらず常にその庁に保存し、上告の提起あるときは訴訟記録に判決の正本を添附し上告審に送付し、上告完結後第二審裁判所を経由せずに、直接第一審裁判所に返還すべきものであつて、そして、訴訟当事者必要あるときは、何時でも、第二審判決原本を閲覧することができるものと解するを相当とする。されば、上告記録に第二審判決の原本を添附せずに正本を添附するものとしても、毫も上告人の第二審判決原本の審査権を侵害することはない。そして判決の原本又は正本に契印が欠けていても、その連続性を認め得る限り、訴訟法上これを無効とすべき理由はない。そして、本件判決正本は、第一丁表に作成者の訂正印、第二丁裏以下に同一作成者の契印が存し、その他文章の脈絡の上からも同一判決正本としての連続性を有すること明らかであるから、所論第二乃至第四点は、すべて採ることができない。

よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斉藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 岩松三郎)

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